碧野圭 著 菜の花食堂のささやかな事件簿シリーズの2作目を読み終えました。
菜の花食堂という、住宅街にある評判のお店が月2回だけ行われる料理教室。
菜の花食堂の店主で、料理教室の講師である靖子先生と助手の優希さんが
近所で起こるミステリーを解決していく物語です。
物語のタイトルはいつもお料理や食材の名前がついています。
- きゅうりには絶好の日
- ズッキーニは思い出す
- カレーは訴える
- 偽りのウド
- ピクルスの絆
タイトルだけ見ても、なんだかほんわか優しい気持ちになるんですが、
物語に出てくる数々の料理が本当に美味しそうで、ほっこりします。
たとえば、カレーの物語に出てくるレシピは、レシピを読むだけで食欲をそそります。
ニンニク、玉ねぎ、セロリ、ピーマンときゅうりのピクルスを細かく刻む。量が多いのでたいへんな作業だが、五人でわいわいおしゃべりしながらやれば、
あっという間に作業が進む。刻んだ野菜を順番に炒め、さらに合いびき肉を炒めて赤ワインを入れ、アルコール分が飛んだところに、
先生秘伝のカレーの素を足す。さらにレーズンを入れ、トマトソースとスープを加えて水分がなくなるまで煮込むのだ。
ふつうのドライカレーの作り方と違うのは、ピクルスのみじん切りを入れることと、特製のカレーの素を入れることだろうか。

物語の料理と同じく、靖子先生の人柄がとっても素敵なんです。
靖子先生は本当に料理が大好きで料理人になった女性。
「―中略ー 九月はまだ暑いから、夏野菜がいいわね。優希さん、何か扱いたい食材はありますか?」
先生はわくわくする気持ちを抑えられないという顔で私に尋ねる。料理するだけでなく、レシピについて考えるのも先生は大好きなのだ。
料理がうまいからそうなのか、日々わくわくしながら作るから料理が上手なのか。きっとその両方なのだろう。
先生にはほんとうにかなわないな、と私は思っていた。
優しく穏やかで、料理のこととなるとわくわくが抑えきれない。
でも、そんな素敵な先生に意外な一面があるんです。
実は日本のミス・マープルと言われる程の名探偵なんです。
「実は、こちらに来たいと思った理由のひとつは、先生が名探偵だとうかがったからなんです。」
小島さんの瞳はいたずらっ子のように生き生きしている。
「名探偵?誰がそんなことを」
「紹介してくれた碇さんが言ってましたが、このあたりでは評判らしいですよ。ちょっとしたヒントから真実を見抜く、日本のミス・マープルだって」
料理教室の生徒も靖子先生の料理と靖子先生自身の人柄に引かれて通っているのですが、
名探偵との評判もあって、色々なことを相談します。
相談の中のちょっとしたヒントから、その謎の裏側にあるストーリーを読み解いてしまうんです。
でも、この物語の素敵なところは、謎解きをしても、無理に正義感を押し付けたり、無理やり謎の扉をこじ開けるのではなくて、
優しく諭すよう、北風と太陽の太陽のような温かく開かれるような謎解きなんです。
どんな切ない事件でも、どんな許しがたい事件でも、
最後は必ず先生が優しく微笑んで物語は終わります。
そして、読んでいる私も、色々な事柄には、善悪だけで判断できない、
それぞれの想いがあるのかもしれないと思いを馳せたり、
美味しいものを食べて、明日からまた優しい心で頑張ろうと思えたりするんです。
今回のシリーズ2作目で感じたことは、
何事もタイミングってあるのかもしれないということ。
あの時こうだったら、今頃はこうなったのに、、、
いつもそう思ってしまうんですが、
それさえもタイミングの問題。
「あの時」に「こうだった」としても、きっと想像通りに結果にはならなかった。
だから、過去に意識を向けて、苦しくなったり、悲しくなったりすんではなくて、
「仕方なかったんだ」と思って、その想いをそっと流してあげることも大事なんだと思いました。
きっと自分の意思ではどうしようもないこともある。
理不尽だったり、納得いかないこともある。
でも、それにいつまでもこだわるんではなくて、
心を優しく、そして今目の前にある幸せに目を向けて、生きていくことができれば、
いつかは分かり合えたり、巡り巡って許しあえたりするものかもしれない。
そんなことを想う「優しい事件簿」です。
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